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鳥取地方裁判所 昭和37年(ホ)23号 決定 1962年12月18日

被審人 沢タクシー株式会社

主文

被審人を罰しない。

手続費用は国庫の負担とする。

理由

本件記録によれば、被審会社において原職復帰及び平均賃金支給の点につき本件緊急命令違反の事実が認められないでもないが、他方本件緊急命令の被復職者たる矢田良行の属していた沢タクシー株式会社上井営業所労働組合が昭和三七年二月二三日解散したこと、同年一〇月二二日鳥取県地方労働委員会々長下田三子夫、同県労働組合協議会事務局長広田幸一立会の上被審会社と右矢田との間において「被審会社は矢田に対し金一〇万円を贈与する。矢田は円満に被審会社を退職済であること及び同会社に対し金銭その他一切の請求権のないことを確認する。」こと等を内容とする和解契約が成立したこと及び被審会社において鳥取労働委員会を被告とする本件緊急命令の前提たる救済命令取消訴訟を取下げ、右労働委員会においてもその取下に同意し、該訴訟が終了したことが認められる。而して、本件緊急命令は労働者の経済的困難を除去し、引いてはその間において予想される団結権の侵害を防止することを主たる目的として発せられたものであり、緊急命令違反の過料処分は緊急命令の将来の履行を強制的に確保するためのものであるから、仮に緊急命令違反の事実があつたとしても、該命令の履行を強制することによつて団結権の侵害を防止する必要がなくなつた場合には、その処罰の必要性もなきものというべきところ、前記認定の労働組合の解散及び和解契約により本件緊急命令の保護すべき目的が消滅し、引いては該命令の履行を強制すべき必要もないから、被審会社に対してはその処罰の必要性なきものといわなければならない。

よつて、手続費用については非訟事件手続法第二〇七条第四項後段を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 秋山正雄 今中道信 杉本昭一)

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